secret time

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俺は自分の決断を、
こいつと共に生きると決めたことを、
後悔なんてしない。



蘭　- The end of struggle -



夜遅く。なぜか寝付けなかった俺は、暗闇の中でふと、あの羽織が目に入った。
何気なく手に取り、そのまま外に出る。
もちろん、あいつが寝ているのは確認済みだ。

外は雨が降っていたが、傘はささずにその場に立ち、空を見上げる。

「…風邪、引くかな」

そうぽつりとつぶやき、そういえばよく新八に
バカは風邪引かねえ、なんて言ってからかってたな、と思い出した。
少し胸が痛くなった気がして、苦笑いがこぼれた。



初めて、心から愛した女だった。
あいつの為なら何でもできる、何でも捨てられると思ったし、
事実、あいつを守るために新選組を離隊し、
あいつと共に闘い生きていくために新八とも別れた。

後悔はしていない。
悩んだが、決めたことだ。
それなりの、小さくはない覚悟はできている。

ただ、…正直、新選組で馬鹿やってた頃が懐かしくもあるし、
たまにこうして思い出して、あの頃は呑気で楽しかったと、戻りたくなることもないわけじゃない。

決めたことだ。
覚悟はできている。
……だからこそ。

大昔に腹切った時の傷も、戦の中でつけられた傷も、この軋む心の傷も。
全てを抱いて、ただ望む、求める未来の為に進んでいくしかない。


それが俺の、


「誠、か……」



ふと、今手にある浅葱色の羽織を、そしてかつて掲げていた「誠」の文字を想う。
雨に降られ、濡れて重くなった羽織。
数え切れないほどの奴らの血と、そして命を知っている羽織。


これだけは、手放せなかった。
これさえあれば、あの頃の俺たちと、
そして今もどこかで刀を振るっているであろうあいつらと、
繋がっていられる気がして。

この羽織さえ纏っていれば、行き先がどんな未知の場所でも、強くなれる気がして。


「らしくもねえよなあ……」



もしかしたら俺は、戦うことを辞めて女を選んだことを、
土方さんや総司たちに責められるんじゃないか、なんて思っているのかもしれない。

そんなこと、あいつらに限ってあるはずがないのに。


ただ今の俺が守りたいのはあいつだけで。
あいつとの記憶、思い出、今の日々、そして未来で。
十番組組長としては間違っているかもしれないが、
でも、俺が今まで奪ってきた命も全部、背負っていくから、

認めてほしい、と。


願っているのかもしれない。



「家族、みてえなもんだったからな……」


泣きそうな笑顔で送り出してくれた新八に、
試衛館の頃から一緒だったあいつらに、
せめて恥じないような生き方をしたいと、思う。

そのためにすべきことは、もう見えている。


「行き先はもう決めてあるんだ」

あとは進むだけ。


「……ここで躊躇って、どうするってんだ」




まだ先が暗く闇のように見えたとしても、もう振り向かない。


「そりゃあまあ、たまには思い出して、何してるだろうなって、生きてるかなって、考えることはあるかもしれねえが」


改めて、自分がした決断の重みに見合う覚悟の大きさを、感じるから。


ただ、愛する女のために。

あいつのために。



俺は、生きる。